生みの苦しみ

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 15

June.

2016.

こんにちは、渋谷店よりプレスの漆畑です。

ジトジトと鬱陶しい季節ですが、お店の中は春に発表された新作が毎週のように入荷したり、ネイティブサンズのイベントが行われていたりとなかなか活気付いております。

 

NATIVE SONS イベント情報→https://gbgafas-co.jp/all/4483

 

そんな中、今日は最近入荷している新作の中から何かをご紹介しようと思ったのですが、どれをご紹介しようか悩みます。

どうせなら1番作り手を煩わせたモデルを紹介したいと思いまして、幾つかのブランドをピックアップして製作に関わった方に直接製作苦労話を聞いてみました。

生産者の生の声を届ける場を提供することも売り手にできることの1つなのかなと。

 

まず、G.B.Gブログ読者の皆様には馴染みが深いYELLOWS PLUSより、デザイナー山岸稔明さんにとって、今季最も難産した新作モデルを尋ねると「STEVIE」とのことでした。

 

STEVIE_432

STEVIE ¥32400

 

YP STEVIE

 

山岸さんへ苦心した点を尋ねたところ、以下のコメントです。

 

『コンビネーション特有の難しさではありますが、※プラパーツの遊びの加減です。プラ素材にメタルパーツをはめ込む場合、弛み(遊び)をつけないとはめ込む事ができません。その加減によってはデザインが崩れてしまう事があります。デザインを崩さずに最小限の遊びを作る事は指示をする上でも難しく、制作者の経験値が大きく影響します。特にラウンド系のレンズシェイプのSTEVIE は、※つりたれの加減を探る事も難しく、同時にテンプルのたたみ加減も一緒に探らなければならないという厄介さもあります。また、※ヨロイ部分のかしめ止めも、固く固定すれば傷が残り、傷を残さないようにすれば甘くなってしまいます。それには精度の高い固定治具の製作が不可欠になり、繰り返し部品をロスさせながら探らなければなりません。良い物作りとは、経験値はもちろんですが、時間と部品のロスは惜しんではいけないという事をいつも痛感させられています。』

 

※プラパーツ・・・プラスチックのパーツ

※つりたれ・・・ツリあがりやタレさがり

※ヨロイ部分のかしめ止め・・・フロント両端と蝶番との接合部分。別名、智(ち)。

 

専門用語も多いのですがあえてそのまま掲載させていただきました。コンビネーション全盛の昨今、リスクも多い仕事の現場が見えてきます。パーツが多くなればなるほど分業を基本とする鯖江のモノづくりは難度を増していくのですね。“時間と部品のロスを惜しんではいけない”、とても含蓄のあるコメントです。

 

次にデビュー3年目、極めて未来的でクリエイティブな モノづくりをしているのにどこか懐かしいコレクションを展開しているOG×OLIVER GOLDSMITHの生産に深く関わる三島正さんに尋ねました。もっとも苦労したモデルは一連のコンビネーションとメタルの七宝とのこと。

 

Curator Col.106 斜め

Curator ¥45360

 

ディティール2

 

Gardener Col.021-3 斜め

Gardener ¥36720

 

ディティール8

 

以下、三島さんの苦労話です。

 

『OG×OLIVER GOLDSMITHはノスタルジーを感じさせながらもモダンにアップデートさせていく事をアイデンティティとして持っています。眼鏡の歴史や職人の技術には最大限のリスペクトがあり、その継承にもブランドなりの解釈を盛り込み製作されています。そんな中で、“メタル”。やはり七宝ですね。普通に塗ってもチタンの力強くシャープなラインに負けてしまうので、熟練の職人により可能な限り厚く、少しいびつでどこか未完成なボテっとした表情を出すことに苦労しましたが、それにより、シャープになりがちなメタルフレームがノスタルジーを持った表情になりました。それからコンビ枠、アセテートとチタンの合わせですね。今回、ブランドはこれまで以上に構造美を追求しています。ただ、デザインとしてはシンプルな物を好んでおりデコラティブにならないよう配慮しました。アセテートは※ドロバフで鋭角的にシャープに仕上げ、日本屈指のプレスで仕上げたチタンパーツを組み合わせ、角度により見え隠れするチタンパーツは奥ゆかしくも存在にエレガントさを与えてくれます。日本はチタン技術に目が向けられがちですが、個人的にはこれは世界レベルで見れば追い抜かれていく気がしています。しかし七宝やドロバフなど手で合わせていくような日本人の気質で勝負していける工程はメイドインジャパンの真骨頂と言えるのではないでしょうか。』

 

※ドロバフ・・・研磨剤を混ぜた泥状の磨き粉をバフと呼ばれる高速回転する布で磨く作業

 

モードの先端をゆくデザインはアナログな技術によって、否アナログだからこそ差別化される手仕事によって支えられていることがわかります。

 

次はデビュー以来応援しているG.B.Gゆかりのブランド、H-FUSIONを手掛けるオプトデュオのデザイナー斉藤さんに尋ねました。もっとも苦心したモデルは「HF601」とのこと。

 

HF601

HF601 ¥37800

 

HF601ディテール

 

以下、斉藤さんへ苦心した点を尋ねたところのコメントです。

 

『H-fusionとしては初のオールチタンフレームです。これまで展開してきたHF-111やHF-122のようなコンビネーションフレームの雰囲気を出す為、※ブリッジ・※リム・ヨロイは一体型ではなく、全て別々の部品で製作しました。部品の数が多くなる為、それぞれの精度を保ちつつ全体のバランスを崩さず表現する点に苦労しました。』

 

※ブリッジ・・・左右のリムをつなぐ要のパーツ。

※リム・・・レンズを固定する枠。

 

シート状のメタルフレームに比べ、独立した複数のパーツを組み合わせることで立体感が出ていますね。オールチタンなので大変軽量で耐久性のある眼鏡にもなっています。クラシカルなデザインが好きな方はシートメタルには抵抗がある方もいらっしゃると思います。そんな方にも受け入れられる懐かしさも宿したクラシックメタルです。

 

以上、蔵出し新作4つのご紹介でした。

 

眼鏡の値段について、ときおりお客様より尋ねられることがあります。なぜ量販店と値段が違うのかと。こだわってデザインされる眼鏡のコストがどのような所にかかっているのか、このような作り手の生みの苦しみを聴くことでその一端をいくらか説明できるかもしれません。

 

(プレス 漆畑)

 

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